「……俺以外、見ないで。」
……先輩、それはどういう意味ですか?
どうして、私にそんなことを言うのですか?
先輩の細長く白い手に取られた、特に特徴のない私の手。
あの日みたく手の平が合わせられ、先輩の親指が軽く、私の甲を撫でた。
「帰ろ。」
再び歩き出した足についていく。
私に合わせられた丁度いい歩幅。
さりげなく歩く車道側。
優しく繋がれた手と手……。
どれもが高鳴った鼓動を鳴り止ませてはくれなくて、無性に、先輩に抱き着きたいと思った。
「い、一ノ宮先輩……。」
弱々しく先輩を呼んで、その声を聞いた先輩が振り返ろうとしたとき……。

