GOING UNDER(ゴーイングアンダー)

「美奈の言うとおりだもの。あたしのことだし、あたしの髪だし、あたしの将来だから、もっとあたしがしっかりしなきゃって本当に思う。そう思うのに、怖くて……あたし、意気地なしで……いつまでもこんなで……きっと美奈も、呆れてるよね。あたし、友達って美奈しかいないし、でもこんな弱虫だと、美奈だってきっと離れていってしまう。そうしたらあたしは一人ぼっちだって考えて、それも怖くて……怖くて……」

「馬鹿ね」

 美奈子は琴子を抱きしめる腕に、きゅっと力を込めて、

「どうしてわたしが琴から離れていってしまうって思うのよ」
「だって美奈は友達多いし、しっかりしてて、1人でなんでもできて、クラスで人気もあって、あたし……あたしなんかいなくても、やっていけるし……」

 語尾が震え、琴子は黙り込んだ。

「馬鹿琴」

 美奈子は琴子の前に回り込んで、肩をつかんで覗き込んだ。

「わたしにとって、ほかのクラスメートとあなたがどうして一緒だと思うの? わたしはいつだって琴と居たくて、これからだって琴と居たいから、一緒に高校に行こう、医者を目指そうって言ってたんじゃない」
「だって……」

 大きな目を寂しげに伏せ、琴子は言った。

「ほんとは、美奈、あたしがあんまりぐずぐずしてると腹が立つんでしょ? あたしが優柔不断で、もたもたしてて、はっきりしないから」

 美奈子は驚いて、琴子を見返した。
 感づかれていた? 時に苛立ちに駆られる自分を、うまく隠してきたつもりだったのに。

「お兄ちゃんにもよく言われるの。ちゃんとした意志表示もできなくて、いつでもなんでもママの言いなりで、そんなんでいいと思ってるのかって。パパも……あたしにはいつもイライラさせられるって。はっきりしない、本当にグズな子だって……言われて……美奈だって、我慢してつきあってくれてるけど、あたし、やっぱりちゃんとできないし……少し、少しは強くなんなきゃ……」
「待って! 琴」

 美奈子は両手で琴子の肩を揺さぶった。

「待ってよ、違う。そうじゃないの」

 とっさに言葉が出なくて、それでも何か言わなくてはとあせりながら、美奈子は首を振った。