けれども美奈子がそう感じることについて、正直に琴子に打ち明けるべきかどうかは、少々悩む。なぜって、琴子はパパにもママにもどこか片思いをしているようなところがあるからだ。

 パパが琴子をどうでもいいと思っているのは傍で見ていてもわかる。兄の知明はそれなりに可愛いらしい。ハンサムでクールで落ち着いていて年の割に大人びていて。自分の分身のように感じるのだろう。
 おとなしくて内気で引っ込み思案な少女は、家庭の中での存在感が薄い。気が弱くてささいなことでめげたり落ち込んだりするところは、特にパパからは疎ましがられてきたようだ。琴子がいつも不安げなのは、パパやママの育て方、接し方がそもそもの原因だろうに。

 琴子のママは仕事をしているわけではなく、いつも家にいる。それなのに、仕事が一番の母親にろくに面倒も見てもらえず放ったらかされて育った美奈子よりも、琴子の方がなぜか愛情に飢えているように見える。
 美奈子の隣りに引っ越してきたばかりの頃は、兄の知明が一身に琴子のママの関心を集めていた。今は自分の思い通りにならない知明に対しては琴子のママは無関心で、身代わりのように琴子ばかりをかまう。といって、それは愛情というよりはむしろ支配とか干渉とかいった類のものだ。

「ねえ、琴」

 ラッシュ時の込んだ電車に2駅揺られて降り、改札を抜けて繁華街とは反対側の住宅街へ向かう階段を降りきったところで、美奈子はもう一度琴子を振り返った。

「あのさ、こんなこと聞くのなんだけど、その、琴子の家ではオープンなの? さっきの梅宮さんのこと。その、母親の違う兄弟がいるってこと」

 琴子は首を横に振る。

「ママはあたしが知っているってことは、知らないと思う。パパはどうだかわかんない。あたしはお兄ちゃんにこっそり教えてもらったの。お兄ちゃんの代わりにお医者さんになれっていわれたときに。おれが医者にならなければもう1人の男の子にパパは病院を譲るだろうから、ママのいうことは聞かなくていいって」

「だったら」

 だったら無理をして医者にならなくても。