早く行こう、の声は出ないから。
祐也の服をグッと握る。


「響に言っとけよ。あんま調子に乗んなって」


何処か。
馬鹿にしたような声。

私には向けられた事がない、雄大の敵意。


数秒。祐也が雄大を見つめていたけど、何事もなかった様にエンジンをかけ、ゆっくりバイクを発進させた。

バイトに送ってもらった時とは違い、猛スピードを出す訳ではなく。


夜風にさらされ、髪が靡く。

はらりと。
髪が落ち着き、エンジンが止まったのは。

「降りていいぞ」

私の家……いや、元家か?……ではなく。
ホテルでもない。


「ここ……どこよ」

「慶ちゃん家」


はあ?誰だよ!慶ちゃん!
お前の彼女の家か?

私の心は総無視で、目の前のマンションに入っていく祐也。

え!まさかおいてけぼり?

「おい!祐也!バカ!」

祐也に向かって悪態を吐きながら、バイクから降りて、地に足を付けた時。