「今は境の話の途中だから」 「いいから」 「嫌だ。境に遠慮してるわけじゃない。人としてそういうことしたくない」 「……お願い、出て」 僕の信念とやらはこの程度のものらしく、リエが真面目にすがるように言うのを聞いてあっさり電話を取った。 一瞬、どうしてなのか、車の外に出て電話を取るべきか? と迷ったのだが、何も後ろめたいことはないし、僕はそのまま携帯電話を耳に当てて、指だけでボタンを押した。