「高梨くん!」 「ん?」 「私のお尻、見てたでしょ?」 境は腕をプルプルさせながら立ち止まっている。 わざわざ立ち止まらなくてもいいものを、よほど腹が立ったのだろうか。 一瞬、動揺した。 だけど、僕が見てたのはふくらはぎだ。 「尻? ……見てない。いいから運べ」 「ふ〜ん……」 境は不服そうにそう言うと、また上を向いて、一歩一歩、慎重に階段を上り始める。 僕はそんな境の横を通り抜けて、さっさと書類を置くべき場所へと向かった。