「その時僕が彼氏になったのは覚えてるのに?都合の良い記憶だなぁ」

「…だからそれは無かった事にしてって言ったのに、それなのに君が…っ」

「君じゃないって。何度言えば覚えてくれるの?」

「…い、いや、忘れた訳じゃないけど、」

「じゃあ呼んでよ。名前も呼んで貰えないなんて辛い。悲しい」

「……」


…そんな目で見ないで欲しい。


だって、あんまり踏み込みたくないんだもん。

これ以上彼にハマりたくないんだもん。


なんて本心は絶対口に出してはいけない。そんな事したらもうダメだ。この子は絶対食いついてくる、目を爛々と輝かせて。


「…もう準備しないと。遅れちゃう」


実際まだ時間はあったけど、話を逸らそうと試みた。でも状況は最悪だ。だって離してくれないんだからベッドから出られない。ていうかこの至近距離から離れられない。


「じゃあ名前呼んでよ、そしたら出してあげる」


そっか、そうきたか…ってあれ?

可笑しい、いつの間にか逆転してる。始めは私が責めてたはずなのに、いつの間にやら私が責められてる。名前を呼ばない私が悪い流れになってる。