小悪魔的な彼と悲観的な彼女



「…すみれさん?」

「あっ…えっと…」


切なげ?誰が?拓也君が?

…なんで?

なんでそんなに…なんでそんな風に…なんだろう。そんなのなんだか、覚えていて欲しかったって、そんな風に拓也君が思ってるように、私には思えてきて…


「…ごめんね、覚えてない…」


可笑しな話だ。私達は初対面なはずで、本人もそう言ってる。なのにそれが申し訳なく思えて、罪悪感が私の中で大きくなる。覚えていて欲しいなんて、そんな事はあり得ないのに。どんなに記憶を辿っても、どれだけ彼の姿を探しても、あの夜以前の彼を知る私は居ないのに。それなのに…そんな風に見える彼がここに居るって事は、だ。

それはきっと、拓也君にはまだ何か私に言えない秘密みたいな物がある、という事。そういう事。


それを知りたいとは思うけど…もしかしたら今がそれを知る最大のタイミングだったのかも知れないけど、だけどこんな気持ちになるのなら、させてしまうのなら、もしかしたらそこは秘密のままでもいいのかも知れない…なんて。

そんな風に思ってしまう私もまた、ここに居る訳で。私達は初対面で良いのかも知れない、今は…なんて。

今はまだ…でもきっといつかは…そんな風に思うようになった私はやっぱり、拓也君の事を信用してるんだと思う。信用出来るようになったって事が…それがまた、私は嬉しい。