裕太は今、夕刻を知らせる烏を耳にしながら、教室内でなぜか筋トレをさせられている。
あの日以来体育館が使えなくなり、雨もやまない日々に顧問は頭を唸らせながらも、梅雨の時期はオフということになった。だからだろう。体力、筋力共に一週間ともなれば激しく低下していた。
そして、なぜ、筋トレをするように指示したのが村本はるかなのか。裕太は文学的な罰をやらされるとばかり思っていた。

机と椅子を重ねて隅へ寄せ、中心部だけ穴を開けた。そこへ、村本はるかは教卓に立って、裕太を監視している。表情の読み取りづらい顔をして、先刻の青筋が残っていない。
「腕立てを指たてにして50」
唐突な難題に、逆に闘志を燃やす。「無理しなくてもいい」なんて裕太には挑発されているようにしか思えなかった。
(やってやるよ! 無理だと思った方が負けだ!)