「この古文、訳せるから人の話を聞いてないのよね? そうなのね?」

この黒い笑みを見せる教師に、凍てつく空気。
この人物に皆が恐怖している証拠であった。そして、裕太も厄介者だとしている……。
「むーちゃん」
またしても失態を重ねる。
天気の悪い日は気分をも下げ、厄介者のむーちゃんこと、村本はるかにまで相手をしない裕太。
「……垣本……」 
村本はるかの沸点の低さを侮るなかれと言わんばかりに、既にこめかみあたりに青筋を見せる。
冷酷な笑み、淡々となる口調、そして異様な落ち着き。これらが全て揃うとき。

「お前、これから寝る暇なんて与えねぇ」
女であることを疑う口の悪さは、元ヤンのせいだと噂されるくらい盛大に散らす。
妄言に似て、当たり障りのない事までいい、一つの虐待に値するのかもしれない。
心理的虐待。
だが、村本はるかが今も教師でいられるのは、生まれ持った美貌とたまに見せる厚顔無恥の態度。これに男はまんまとはめられ、扱きを受けているのだ。
飴と鞭を巧みに与える、ある意味この校内で一番を誇る「イイ先生」。
丁重に発せられた言葉のなかに、元ヤンだと、今度こそ心のなかで悪態をつき、それから「すみません」と一言、詫びをいれるのだった。