「大体何で呟いたような声しか出してないのに、声張り上げてたお前らに聞こえるんだよ! もしかして地獄耳か? それは可哀想なことで」
「違うわ! たまたま野球部の近くにいた早紀が教えてくれたのよ! 弱小の癖に偉そうに! 何ならグラウンド使えなくしてやろうか」

裕太と互角に言い合うキャプテンの香苗は、気が強くバレー部を強豪にしたのも彼女だった。
一年で急成長を遂げ、香苗が2年へ上がる頃には練習試合の申請が殺到するほどだ。
その香苗の練習着の裾をちょこんと掴む小さな彼女が口を開いた。

「……香苗先輩……へどが出たら、私たちが処理するのではないですし、それに裕太先輩は以前有望視されてた、あの、裕太先輩ですよ?」
「え、そんなわけ……千秋、アタシがどれほど裕太サンに憧れてるのか知ってて言ってるわよね?」
「……はい、間違いないです。ここへ入学して人目見て確信しました!」

裕太の存在を持ち上げる彼女、「千秋」。

バレー部の中では最小の身長であろう。そして、唯一の朗らかで花が綻びるような可愛らしさをもつ千秋。

裕太は千秋を人懐こい、と思って裾を掴む手を見ていると、野球部バレー部共に奇声を発し、完全に一歩足を引いていた。