私は澪汰のことが嫌いだ。
こんな狭苦しい部屋に二人きりでいるだけで、ガンガンと頭痛がするくらいに。

 だけど、たまにこうして優しくなることがある。
少し前、私が務め先で大きなミスをして泣いていたことがあった。
その時澪汰は、一晩中何も言わずにただ私を抱きしめていてくれた。

 下手に何かを聞かれるよりずっといい。
彼なりに気を使ってくれたんだろう。

 私が初めてここにきて、不安で震えていた時も。
繰り返される暴力に耐えきれなくなった時も。

 本当の極悪人ならこんなことはしないだろう。
泣いていようと無視。

 いや、むしろ黙らせるためにさらに暴行を加えるかもしれない。
泣いても失神してしまえば静かになる。

 もし私が澪汰だったら、そうするだろう。

 だが、澪汰は違った。

 そんなとき、澪汰は私に優しかった。
大切にしてくれた。
元をたどればほとんど彼が悪いのだが。

 こうして今思い返してみると〝本当〟の澪汰は優しい人なのかもしれない。
私を監禁するような澪汰は、裏の澪汰。
表の澪汰はこちらの方。

 …いや。
そんなはずはない。

 私は頭の中で浮遊する、優しい澪汰の記憶を無理やり打ち消した。

 この人は普通じゃない。
異常だ。狂っている。

 この人に裏も表も無い。
全てが裏だ。