さて、あいつがもうそろそろこの部屋に着く頃だろうか。

 アパートの二階、突き当りに位置するこの部屋は、隣が空き部屋のため、とても静かだ。

 しかし、時たま不可解なことが起こる。
誰もいないはずの空き部屋から、物音がするのだ。

 何かが蠢いているような。
そんな音。

 これは私の憶測にすぎないが、虫や動物などではない。
独特の気配で分かる。
ソレはきっと人間だ。

 何度か私はこの部屋の主、小林澪汰に問うたことがある。
「隣から物音が聞こえるんだけど、本当に誰もいないの?」
と。

 だが返ってくる答えは毎回同じだった。
「俺は隣がいないからここを選んだんだ。こんな目立たない場所、新しく入ってくる人もいないだろう。俺は面倒くさいご近所づきあいはしたくないんだよ。じゃなきゃこんなぼろアパート、とっくに出てってる。」

 そう無表情で言うだけ。

 後は何を聞いても「知らない。」の一点張り。
納得のいく答えは出ないが、私はもう聞くことをやめた。

 少し気味は悪いが、別に大した支障ではない。