私は嫌にギラギラとした繁華街に居た。
夜の街は大人達で大変賑わっている。

 目に痛いネオンと様々な店からの音楽が混ざり合って、もはや雑音となっている。
スーツ姿の派手な髪色をした男たちがせわしなく歩いていく。

 ごちゃごちゃと色々なものが混ざり合って何ともうるさい街。
だが、そんな街が唯一の私の居場所だった。

 キャバクラやらグラドルやらのスカウトマンが、必死の作り笑顔でまとわりついてくる。

 そんな人たちを振り切って、私は一層ギラギラとしたビルに入る。
このビルの七階が私の仕事場。

 店内は以外にも落ち着いていて、黒を基調とした店内にオレンジ色のライトが妖艶さを演出している。

 私の仕事は、俗にいう風俗嬢。体を売って生計を立てている。
母親は私が小学生のころに出て行った。
残された父親は、酒と女に溺れて借金まみれ。
私が稼ぐしかなかったんだ。そのため高校生のころから違法に雇ってもらっている。

 そんな私にとって澪汰のいるアパートは、生きていくために縋り付いていたい場所なんだ。
だから簡単にはあそこを離れることが出来ない。
 
 だけど澪汰にこんなところで働いているなんてばれたら殺されかねない。
澪汰には、深夜の方が自給が良いからコンビニの深夜帯で雇ってもらっているということにしている。

「あ、結衣先輩こんばんはー。」

 スタッフルームへ向かおうとすると、受付としてバイトをしている後輩の稲瀬君が笑顔であいさつをしてくれた。

「こんばんは。もう来てるなんて早いね。えらい、えらい。」

「後輩が先輩の後に来るなんてありえませんよ!!」

 稲瀬君はにっこりと笑った。ぷっくりと膨らんだほっぺたがほんのりピンク色に染まっている。
明るめの茶髪にやんちゃな性格。あいつとはまるで大違い。

_稲瀬君が、私の傍に居てくれたらいいのに。

 そしたらどんなに幸せなんだろう。稲瀬君は絶対に私を傷つけるようなことはしない。いや、また裏切られるのだろうか。

 いや、そんなはずはない。
稲瀬君の表情は本当に純粋で、綺麗で。
こんな淀んだ汚い世界に似合わないほど汚れを知らない目。
私みたいに薄汚れた女なんて、似合わないか。

「先輩?ボーっとしてどうしたんですか?」

「えっ、あ、ごめん。」

「さっきからうわの空で、もしかして悩み事ですか?俺聞きますよ。あ、彼氏の事とか!」

 彼氏、澪汰のことか。
鋭いね。でもごめんなさい。
稲瀬君を巻き込むことは出来ないよ。
あんないかれた男と関わらせたくない。

「私彼氏なんて居ないよ。」

「え!そうなんですか?!結衣先輩美人さんだからてっきり…。」

「なにそれー。美人なんて言ってくれるの稲瀬君だけだから。」

「そんなことないです!スタッフの皆も結構言ってて…。こんなこと言うの不謹慎だと思いますけど、俺あんまり先輩にこの仕事してほしくないんです!」

 いつもはおちゃらけた雰囲気の稲瀬君が急に真剣な顔つきになった。
そのいつもとのギャップに戸惑ってしまう。

「嫌なんですよ。俺、結衣先輩がいろんな男の人と抱き合ってるの。ただの…俺のわがままですけど。」

「い、稲瀬君?どうして、」

「俺、結衣先輩の事が好きなんです。
 結衣先輩は俺の事いつも子ども扱いするし、真面目に受け取ってもらえないかもしれないけど、今はそれでもいいです。
 でも、悩みがあるなら相談してください。
 俺だって、好きな人の力になりたい!結衣先輩に笑顔でいて欲しいんです!」