ガコン。

 郵便受けが乱暴に閉まる音がした。

 郵便受けは反動でカタカタと音を立てて震える。
それはまるで私のように思えて。

 直後、階段が軋む音がだんだんと近づいてくる。
まるで私を追い詰めるように迫る単調な恐怖。
 
 ぼろいアパートにキシキシと広がる不愉快な音。

 直感でわかる。

 _あいつが帰って来た。

 逃げなきゃ。
でも何処へ逃げればいい?
どうすれば此処から逃げられる?

 私は金属製のベッドに括り付けられた手錠を見て、落胆する。
ひんやりと冷たい手首の感覚。
金属の冷たさが心までもを冷やしていくような。
…実に不愉快だ。

 強く引っ張ってもただカチャカチャと擦れる音が無意味に鳴るだけ。
私に逃げ出す余地なんてないのだ。

 …無駄なことはもうよそう。
私は抵抗をやめ、天井を見上げた。

 汚れた天井のシミか模様かが目玉のように見える。
なんだか監視されているようで気味が悪い。