私は織子ちゃんとクラスが違う。
よって、織子ちゃん以外に親しい人はいない。
私が同性と付き合っているということを知った途端、みんな私を避け始めた。
…いや、それ以前から友達はほとんどいなかったけど。

しかし今の私は織子ちゃんが居ればそれでいい。
他に何もいらない。
人間、大切なものが何か1つあれば生きていける。
でも大切なものを何も持っていない、ツマラナイ人間もいる訳で…


「雪ちゃん…1人?次、移動教室だよ。一緒に行かない…?」

話しかけてきたのは、クラスで私以上に孤立している市山さん。
いや、ある意味私よりは人づきあいをしている。

市山さんはいじめられっ子だ。

誰か庇ってくれる人を作りたいのか、単に友達が欲しいのか知らないけど
自分と同じく友達の居ない私なら簡単に馴染めると考えたんだろう。

「なんで私?」

理由は何となくわかっていたが、真意を知りたかった。いや、単に揺さぶりたかっただけかもしれない。

「え…雪ちゃん、いつも1人だから…」

「私は市山さんと違って1人でも大丈夫なの。だから気にしないで、1人で行っていいよ」

「…うん。ごめんね…」

顔を赤くして、語尾を小さくしながら市山さんは1人で歩いて行った。
多分、涙目だった。

今の私と市山さんのやり取りを見ていた数人が、クスクスと笑っている。

可哀想な市山さん。話しかけたのが私だったばっかりに、みんなに笑われて。
でも私は不幸せな市山さんとは違うの。
大好きで大好きで大好きな、愛する人がいる幸せ者。
だからごめんね。私、本当は1人じゃない。市山さんの仲間じゃない。


「市山って生きてて楽しいのかな?」

誰かが言った。


それは彼女にしかわからない事だろうけど。