「やめて…」


彼女は左腕を抑えながら震えていた。
大量の血が流れ出る。痛みよりも先に恐怖が彼女を支配していた。

自分の目に映る現実、包丁を持った冷たい目付きの女が、彼女に恐怖を与えていたのだった。


薄暗い部屋の中、二人きり。逃げ場は無い。


「最近、この辺りに通り魔が出るらしいね」

「え…?」

「そいつに刺されたってことにしてね。その腕」




会ったことも無い通り魔の男、あるいは女に罪を被せた。


「分かった?私がやったってばらしたりしたら、腕だけじゃ済まさないからね」

「わ、分かった…」


震える女は、まるで被害者のような顔で頷いた。

それが私のかんに触ったが、面倒なので無視しておいた。

「織子ちゃんに近づくから…」

「ごめんなさい…許して…痛い…」

「私と織子ちゃんが付き合ってるって知ってたんでしょ…なのに織子ちゃんに告白するなんて酷いよ…」


私は泣きそうになりながら去る。
織子ちゃんが私以外の女になびく訳ないが、悔しかった。
あんな女に、織子ちゃんを横取りされそうになっていたことが。