愛らしいと素直に口の端を上げた。
そして湿って一束が大きい彼の髪を掻き揚げるように後ろに流して自分の唇を彼のに重ね。
「残して捨てたら殺します、」
「むしろ足りなくて【おかわり】するよ?もう無いって泣くほどに、」
あっ、妖艶。
瞬時にそう感じたグリーンアイの目。
こういう時ばかりはこっちが戸惑うほどの大人の男を垣間見せて、うっかりその姿に呑まれたタイミングを計って私を乱し始めるのだ。
お湯が大きく波打って、パチャンと大きく響いたのが反響する。
でも一度。
一度大きく揺れた波は収まって、お湯がぶつかり合っての音も静まる。
そしてそれこそウサギのようにお互いにピンと不動になると、再確認したそれに私は小さく息を吐き、彼は面白いくらいに落胆。
『出直し!』
私の言葉じゃない。
そして言葉でもない。
でもそんな響きにも感じ取れる遠くから聞こえる愛娘の泣き声に、さすがの彼も私を解放せざるを得ない。
それでも泣く泣く苦悶の表情でその身を解くと、深い溜め息をつきながら浴槽の縁に突っ伏した。
そんな彼に苦笑いを浮かべながらその身を立ち上げる。
水を滴らせ、浴槽のお湯を揺らしながら湯船から上がり彼を見下ろした。
「『出直せ』って事らしいですよ?」
「ウチのお姫様方ときたら・・・・」
「翠姫もまた欲求不満で怒っているのかもですよ?」
「・・・欲求不満?」
「だって・・・最近まともに抱っこできていないでしょう?だから怒っての嫌がらせですよ」
「もう、こうなったら2人共俺が恋しくて怒ってたって解釈しとく・・・」
そう告げて困ったように笑って私を見つめた彼に無言を返す。
でも口元には弧を描いて。
肯定か否定かは自己判断に任せると、火がついたように泣き続ける娘の元へとタオルで水けを拭きながら足早に向かった。
その後どうやらしっかり目覚めてしまったらしい翠姫に牽制されて、【解禁】といかなかった彼の苦笑い。
でも、久しぶりに彼らしい笑みで翠姫を抱き上げてあやす姿に数日の不満の解消。
そうか・・・、夫としてだけじゃなくて・・・父親としての彼にも会いたくて私はイライラしていたんだなぁ。と変に納得。
私は、翠姫が心底可愛くて仕方ないと、屈託のない笑みで笑う彼が好き。
そう結論を得ながら再度その笑みを確認して、彼の食事を温め直し始めた。
でも、
やっぱりさっきのお風呂での時間も必要なのよ?
ダーリン・・・。
時々は2人きりでお風呂に入りましょう。