――戦後に生まれた私達は、戦争も原爆も体験していない。

 平和な日本で生まれ育ち、平和であることが当たり前だと思っていた。

 世界の情勢が刻一刻と変化する今、核兵器のない世界を心から願うものの、核所有国はあとを絶たない。

 核を持つことに、どんな意味があるのだろうか。

 戦争を終結させるために投下したとされる原爆。
 アメリカ軍と当時の政権の思惑にはさまざまな説があり、その真意は今もわからないままだ。

 ただ言えることは、その原爆により多くの命は奪われ、今も被爆の後遺症や核の恐怖に苦しむ人々がいるという現実。

 私達は、その事実から目を逸らしてはいけない。

 核兵器の脅威が、この美しい地球を一瞬にしてモノクロームの世界に変えてしまうことの怖さを、私達の未来が閉ざされてしまうことの怖さを、忘れてはいけないのだ。

 ――尊い命が……

 ――尊い笑顔が……

 一瞬で色を失い、破壊されてしまうことのないように……。

 私達一人一人が深く記憶にとどめ、被爆地の現実を過去の悲惨な出来事で終わらせてはいけない。

 ◇

 ――夜9時、川辺を照らす朧げな青白い光。

 数匹の蛍が、川辺を漂う。

「もも……見て、蛍だよ」

 桃弥は黙って頷き、私の手をそっと握った。

 耳を澄ませば……
 時正君や祖父母の声が聞こえる。

『桃弥くん………ね……ねちゃん』

 ――ゆらゆらと漂う蒼白い光は……

 まるで……
 空から零れ落ちた涙のように、夜空に流れて消えた。






あの日、あの時、君といたモノクロームの夏。【完】