あの日、あの時、君といたモノクロームの夏。

 ◇

 ―午後9時過ぎ―

「おばさん。夜分にすみません。ねねいますか?」

「あら、桃弥君こんな時間にどうしたの。2人とも喧嘩でもしたの?音々、今日様子が変なの。部屋にいるから上がって」

「はい。お邪魔します」

 俺は玄関で靴を揃え、2階に駆け上がる。音々の部屋のドアを開けると、「キャア――!」という悲鳴と共に枕が飛んできて顔面にぶち当たった。

「ひでえな」

「やだ。何時だと思ってるの?私、もうパジャマなんだけど。信じらんない」

 音々は白いパジャマ姿、胸元をクッションで隠している。

「……っ、ごめん。俺達幼なじみだろ。今更恥ずかしがらなくても、兄弟みたいなもんじゃん」

 本当は、音々のパジャマ姿にドキッとした。照れくささを隠すために、わざと平気な振りをする。

「どうせ、私は兄弟ですよ」

 音々は頬を赤らめ、不機嫌な眼差しで俺を睨み付けた。

「それで、こんな時間に何か用?」

「ねね、これを見てくれ」

 俺は1枚のビラを音々に差し出す。
 紙は変色し所々破れ、墨も薄れていたけれど、そこには確かにこう書かれていた。

【警告。広島市民に告ぐ。8月6日朝8時15分、米軍が新型爆弾を投下。中島地区(中島本町、材木町、天神町、元柳町、木挽町、中島新町)の住民は即刻町から退避せよ。
 広島から退避出来ない市民は出来るだけ離れた場所に避難するか、防空壕に避難せよ。】

「もも……これは……」

「俺達が書いた警告文だ。ジーパンのポケットに入っていたんだ」

「もも……。やっぱりあれは夢じゃない。思い出してくれたのね」

「思い出したよ……。俺達は第二次世界大戦の広島にいた。原爆投下から広島の人を守るために、時正と日の丸鉄道学校の寮生と、ビラを配ったんだ」

「うん……。お母さんも私達のこと覚えていたよ。あの時の少女が私だってことはわかってないけど、当時家族以外の少年少女が社宅にいたって。
 私達、過去にタイムスリップしていたんだよ。もも、時正君を捜そう。守田のお祖父ちゃんも大崎のお祖父ちゃんも生きていたんだ。時正君もきっと生きているはず」

 音々は瞳を輝かせている。
 時正が今も生きていると信じて……。