あの日、あの時、君といたモノクロームの夏。

 【桃弥side】

 家に帰ると、プーンとカレーの匂いがした。

 そうだ。俺、今日カレー作ったんだ。
 カレーを作って、隣に住む音々を誘って道場に行った。

 なのに……
 胴着じゃなく私服だなんて、どうしてもそこは腑に落ちない。

 音々の一打がよほど効いたらしく、道場に行く前の記憶がない。今日は剣道の練習も殆どしていないはずなのに、体は長時間運動していたみたいにやけにだるい。

「取り敢えず、シャワーだな」

 脱衣場に入り、ジーンズのポケットから携帯電話と丸まった紙を取り出し、紙を確認せずゴミ箱に捨てる。

 シャワーを浴びながら、ふと隣家に視線を向ける。
 隣家の浴室の明かりは消えていた。剣道から帰ると、音々も真っ先に浴室に飛び込むのに、今日はどうしたのかな?

 ゴシゴシと頭を洗いながらも、音々の発した名前が妙に引っかかる。

「ちぇっ、時正君って誰だよ。そんなヤツ、逢ったこともねぇっつーの」

 シャワーを思い切り捻ると、水が飛び出した。頭から冷水を被り、思わず悲鳴を上げる。

「……ひゃあー!!冷てぇ!」

 その時……
 ふと、同じセリフが鼓膜に蘇る。

 ――『ひゃあ、冷たい!雨じゃ、雨が降りよる!どうして風呂に雨が降るんじゃ!』その男子は、シャワーの水を頭から浴び、そう叫んだ。

「あいつは誰だよ……」

 記憶を手繰り寄せるように、思わず風呂場の窓を開ける。隣家の浴室に明かりが点いた。

 ――そうだ……。
 以前、浴室に入ると窓が全開になっていたことがある。俺は全開になっている浴室の窓を慌てて閉めたんだ。何故なら、風呂場の窓から、音々の家の浴室の窓が見えるから……。

 ――『時正のヤツ、油断も隙もねぇな』

 俺は……確かにそう呟いた。
 坊主頭の男子に、音々の入浴姿を覗き見られた気がして腹がたったんだ。

「こら、桃弥、風呂場の窓は閉めろ。ご近所迷惑だぞ」

「父ちゃんお帰り。そうだ、父ちゃんに聞きたいことがあるんだ」

 俺は浴室から飛び出し、タオルでゴシゴシと体を拭き、ジャージに着替え脱衣場を飛び出した。