あの日、あの時、君といたモノクロームの夏。

「……そうじゃなくて。私……第二次世界大戦の広島にいた。原爆投下直前の広島に、ももといたんだ」

「ねね、何言ってんの?アメリカ大統領の訪問でそんな夢見たのか?早くアイス食って頭冷やせ。溶けてんじゃん。食わねえなら俺が食うぞ」

 桃弥は大きな口を開け、私のアイスに食いつこうとする。瞬時にそれを阻止し、思わず声を出す。

「ダメ!」

 違うの。私……
 前にも、桃弥とここでバニラアイスを食べた気がするんだ。

 いつもは自転車で通う道場。
 自転車が見当たらなくて、2人で歩いて家に戻る。

 桃弥の家の敷地でカサカサと何かが動いた。

「誰だ!」

 桃弥が門の横に置いてあった箒を掴み構える。

 ――ふと、脳裏に同じ光景が浮かんだ。

◇◇

 フラッシュバックのように、人影が浮かぶ。その人影はスッと立ち上がり、横顔が街灯に照らされた。そこにいたのは、私達と同じくらいの年齢の男子だった。彼は少し薄汚れた白いシャツと黒いズボンを着用していたが、この周辺の制服ではなかった。

 彼は怯えたような眼差しをこちらに向けた。髪型はスポーツ刈り、素足に黒い鼻緒の下駄を履いている。今どきの若者とは異なり、やや異質だが清楚で真面目な印象だった。

◇◇

 記憶の欠片を拾い集め、パズルのように繋げていく……。

 ――彼の名前は……

 ――名前は……。

「時正君だ!」

 ――蹲っていたのは……
 脳裏に浮かんだ男子ではなく、小さな野良猫だった。

「はぁ?ねね、野良猫に名前つけてんの?猫に時正君って何なんだよ。だせぇな」

「違うよ。もも、思い出して。私達、5月27日を繰り返してる。時正君がここにいたの。私達、ここで時正君に出逢ったんだよ」

「はいはい。今、時正って奴と付き合ってんの?俺に事後報告なんてしなくていいよ。俺達はただの幼なじみだ。ねねが誰と付き合っても、俺には関係ねぇ」

「もものバカ、何で私の彼氏なのよ。大崎時正君だよ。もう知らない」

 時正君が私の彼氏だなんて、どうしてそんな発想になるかな。
 
 私達がただの幼なじみだなんて、どうしてそんなこと言うの。

 ――とてもリアルな夢だったんだ。

 まるで……
 タイムスリップしているような……

 リアルな夢だった……。

 ――桃弥と別れ帰宅すると、母がリビングで祖父の写真を整理していた。同じ光景を、以前見た気がする。

「お母さん、その写真……」

「アメリカ大統領のスピーチを聞いていたら、お祖父ちゃんに逢いたくなってね」