「どうしました?お父さんもご存じですか?綾のお友達とお父さんが知り合いだなんて驚いたわね。同席してもいいですよね。お席もお料理もスタッフさんにお任せしましたからね」

 祖父は戸惑いながらも、私達をじっと見つめたまま「かまわん」と呟いた。

 披露宴会場で私達は新婦の家族と同席する。私の隣には母の姉である美紘(みひろ)伯母ちゃんと、母の妹の瑠美(るみ)お姉ちゃん。瑠美お姉ちゃんは私の叔母だけど、未だにお姉ちゃんと呼んでいる。

 この時代に私も桃弥も存在しないため、美紘伯母ちゃんも瑠美お姉ちゃんも私達のことは当然知らない。

「お母さん、誰なん?」

 瑠美お姉ちゃんが小声で祖母に問う。

「綾のお友達なんよ。お父さんも知り合いらしいよ。わざわざお祝いに来て下さったんと」

「招待してないのに?なんで家族席?」

 瑠美お姉ちゃんのツッコミは正しい。
 招待もされてないのに披露宴会場に押し掛けるなんて、図々しいにも程がある。

 しかも家族でもないのに新婦の家族席だ。ご祝儀もなく普段着の私達。桃弥君はジーンズだし、私は花柄キュロット。全員正装なのに、常識では考えられない。

 瑠美お姉ちゃんはよほど気になるのか、私達を訝しそうに見つめる。

「綾姉ちゃんにこんな友達いたっけ?私、綾姉ちゃんの友達よく知ってるけど、この子ら見たことないよ」

「瑠美、失礼じゃろう。せっかくお祝いに来て下さったんだ」

 祖父の一言で、瑠美お姉ちゃんは「はいはい」と言わんばかりに頷いた。

 雛壇に座る新郎新婦。2人は見つめ合い幸せそうに微笑んでいる。披露宴の最中、あの父が何度も涙を拭った。

 母より涙脆い父に驚きながらも、両親や祖父母の涙に私ももらい泣きをした。

 自分が結婚したわけじゃないのに……。
 家族と永遠に別れたわけじゃないのに……。

 自分はもう……もとの世界には戻れないかもしれないと思うと、涙が溢れて止まらなかった。

 ――2時間後、披露宴は終宴となり、祖父と祖母は両親とともにお客様のお見送りをしている。

「紘一さんに、今日話は聞けそうにないな」

「そうだね。……もも、これからどうするの?私達、行くところも住むところもないよ」

「今は1月だし、野宿するわけにもいかないしな。ネットカフェやカプセルホテルって、この時代にあるのかな?俺、5000円くらいならあるよ」

「私は3000円くらいなら……。でもこのお金、この時代で使えるのかな……」

「……だよな」

 結婚式場の前では、ハネムーンに出発する父の愛車に、父の友人達が空き缶を紐で連ねデコレーションしている。

「凄いね」

「確かに。俺なら恥ずかしくて、あの車運転できないよ」

 クスクス笑っていると、背後からポンポンと肩を叩かれ、思わず声を上げる。

「きゃっ。瑠美さん……」

「あのさ、お父さんが暫く家に泊まりなさいって。あなた達、お父さんと親しいの?綾姉ちゃんの友達って嘘でしょう。家族席に座るなんて、まさか、お父さんの隠し子じゃないよね?」

「まさか!?」
「……まさか!?」

 瑠美お姉ちゃんに祖父の隠し子だと言われ、思わず桃弥君と声が重なる。

 祖父は、きっと覚えていたんだ。
 1945年に私達と出逢ったことを。

「あなたの名前は?あなた達どういう関係なん?」

「峰岸桃弥と峰岸音々です。俺達従兄弟なんだ」

 咄嗟に機転をきかせた桃弥君の嘘に仰天しながらも、自分が『榮倉音々』だとは言えず、その嘘に思わず頷いた。