「国男、手つどうてくれるんか?」

「ああ、みんなもそう思うじゃろう。紘一、わしら何をすりゃええんじゃ?」

「作成したビラを、今日一斉に町に配るつもりじゃ。陸軍の駐屯地を避け市民が立ち寄りそうな場所に貼るつもりじゃ」

「原爆投下は6日じゃろう。それで間に合うんか。広島市民がそれで助かるんか?」

「時間がないのはようわかっとる。じゃけぇ出来るだけ沢山の人に配布するんじゃ。広島から退避出来ん人には戸外に出んように忠告するんじゃ。そしたら直爆で死ぬことも、大量被爆することも避けられる」

「わかった。ビラを配布すればええんじゃな。みんな、このままみすみす米軍に攻撃されたいんか。このまま米軍に殺られてもええんか!」

 国男の言葉に、寮生がざわつく。

「国男、血迷うたか。見ず知らずの男の言うことを信じるんか。お前らは日の丸鉄道学校の恥じゃ」

 和男をリーダーとする反対派と、国男が激しい口論をする。

「何とでもいえ!広島の人を助けることが、わしらの仕事じゃ!」

「国男、わしも協力する。紘一、何をすりゃええんじゃ」

「わしも手伝うよ。警察や陸軍に捕まってもええ。このまま米軍にやられて死ぬんは嫌じゃ!」

 数名を除き、殆どの寮生が俺達に賛同してくれた。手分けしてビラを配れば、多くの人の被害を軽減することが出来る。

「ありがとうみんな。これできっと未来は変わる。俺たちが未来を変えてみせる。ビラは爆心地だけではなく、広範囲に配布しよう。放射能による二次被害を避けるために、原爆投下直後は爆心地に出来るだけ近づかないように警告するんだ」

 みんなは俺の話に、深く頷いた。

 深夜にも拘わらず賛同してくれた仲間は、少しでも多くのビラを配布するために、新たなビラ作りも協力してくれた。

 全員が今日の作業を休むわけにはいかず、俺達4人は一睡もせず早朝よりビラ配りに出かけることとし、国男率いる他の寮生は配属された町で作業しながら、隙を見ては各所にビラを貼ることになった。

 万が一、警察や陸軍に捕まった時のことを考え、3つのルールを決める。

 『ひとつ、日の丸鉄道学校の学生だということは自白しない。
 ひとつ、警告文作成、配布に拘わった仲間の名前は密告しない。
 ひとつ、投獄されても拷問されても、原爆の危険性を訴え市民の命を守るために、全力で退避を促す。』

 俺達に残された時間は、あと1日しかない。