「脅しじゃない。全部本当のことだ。俺は原爆資料館で被爆者の写真を見たんだ。“大量の放射能を浴びた多くの人は白血病を発症し、終戦後も数々の病気やケロイドに苦しんだ”71年経った未来でも、まだ後遺症に苦しんでいる人がたくさんいるんだ!」
俺の話を信じなかった者達が、新聞や携帯電話の写真を目にし次第に口を閉ざす。原爆による悲惨な惨状に食堂はいつしか静まり返った。
――空気が変わった。
そう思ったのも束の間だった。
その空気を破ったのは、和男の一言だった。
「みんな非国民の言うことを信じるんか。未来からタイムスリップしたなんて作り話に決まっとろうが。原爆の話も全部作り話じゃ。もしほんまなら、自分が死ぬかもしれんのに、そいつがここにおるわけなかろうが。大体、日本軍が連合国軍に負けるわけないんじゃ。こいつは米軍の回し者じゃ」
恐怖心を打ち消すかのように、みんなが和男の言葉に「そうだ。そうだ!」と同調する。
「俺は君たちを助けたいんだ。広島の人を助けたいんだ。見てくれ。警告文を作ったんだ。5日にこれを各所に配布する。みんなに協力して欲しい」
時正と紘一が作成したビラをみんなに配る。
「ばかばかしい」
和男は手にしたビラを読むことなく破り捨て、その残骸を天井に投げ椅子から立ち上がる。みんなもそれを真似、ビラを破り捨てた。破られた紙切れがパラパラと空中を舞い床に落ちる。
「警察や陸軍に捕まりとうないもんは、此奴らに協力せん方がええで」
陸軍という言葉に恐れをなした者たちが、ガタガタと音を鳴らし椅子から立ち上がる。床に散らばったビラをズカズカと踏み付け、和男を先頭にほとんどの寮生が食堂を出て行った。
「待って、みんな待って。桃弥君の話はほんまなんじゃ。原爆で多くの人が死ぬんじゃ。僕らも被爆するんじゃ!」
時正は必死にみんなを止めたが、席に残っていた数名の学生も、1人また1人と席を立った。
「紘一、悪いのう。お前らの話は興味深い。ほんまに原爆が投下されるなら体が震えるくらい恐ろしい。命に拘わる重大事件じゃ。けどタイムスリップとか、未来とか、2016年の新聞とか、誰に話したところで信じるわけなかろうが。日本軍はお国のために戦うちょる。それなのにわしらが逃げ出すわけにはいかんのじゃ」
「国男……。これは事実なんじゃ」
村松国男《むらまつくにお》山口出身、寮のリーダー的存在。国男は首を横に振り、ごつごつした大きな手で紘一の肩をポンと叩く。
「警告文を町に配布したところで、誰も逃げ出したりはせん。国民1人1人が敵国と戦っとるんじゃ。今夜のことは寮長には黙っとっちゃる。紘一も軍士も時正も馬鹿げたことはせんことじゃ。ええな」
国男の言葉は説得力があった。
広い食堂に俺達4人だけが取り残される。
時正はガクンと床に崩れ落ち、破られたチラシを握り締め、唇を震わせ悔し涙を流した。
俺の話を信じなかった者達が、新聞や携帯電話の写真を目にし次第に口を閉ざす。原爆による悲惨な惨状に食堂はいつしか静まり返った。
――空気が変わった。
そう思ったのも束の間だった。
その空気を破ったのは、和男の一言だった。
「みんな非国民の言うことを信じるんか。未来からタイムスリップしたなんて作り話に決まっとろうが。原爆の話も全部作り話じゃ。もしほんまなら、自分が死ぬかもしれんのに、そいつがここにおるわけなかろうが。大体、日本軍が連合国軍に負けるわけないんじゃ。こいつは米軍の回し者じゃ」
恐怖心を打ち消すかのように、みんなが和男の言葉に「そうだ。そうだ!」と同調する。
「俺は君たちを助けたいんだ。広島の人を助けたいんだ。見てくれ。警告文を作ったんだ。5日にこれを各所に配布する。みんなに協力して欲しい」
時正と紘一が作成したビラをみんなに配る。
「ばかばかしい」
和男は手にしたビラを読むことなく破り捨て、その残骸を天井に投げ椅子から立ち上がる。みんなもそれを真似、ビラを破り捨てた。破られた紙切れがパラパラと空中を舞い床に落ちる。
「警察や陸軍に捕まりとうないもんは、此奴らに協力せん方がええで」
陸軍という言葉に恐れをなした者たちが、ガタガタと音を鳴らし椅子から立ち上がる。床に散らばったビラをズカズカと踏み付け、和男を先頭にほとんどの寮生が食堂を出て行った。
「待って、みんな待って。桃弥君の話はほんまなんじゃ。原爆で多くの人が死ぬんじゃ。僕らも被爆するんじゃ!」
時正は必死にみんなを止めたが、席に残っていた数名の学生も、1人また1人と席を立った。
「紘一、悪いのう。お前らの話は興味深い。ほんまに原爆が投下されるなら体が震えるくらい恐ろしい。命に拘わる重大事件じゃ。けどタイムスリップとか、未来とか、2016年の新聞とか、誰に話したところで信じるわけなかろうが。日本軍はお国のために戦うちょる。それなのにわしらが逃げ出すわけにはいかんのじゃ」
「国男……。これは事実なんじゃ」
村松国男《むらまつくにお》山口出身、寮のリーダー的存在。国男は首を横に振り、ごつごつした大きな手で紘一の肩をポンと叩く。
「警告文を町に配布したところで、誰も逃げ出したりはせん。国民1人1人が敵国と戦っとるんじゃ。今夜のことは寮長には黙っとっちゃる。紘一も軍士も時正も馬鹿げたことはせんことじゃ。ええな」
国男の言葉は説得力があった。
広い食堂に俺達4人だけが取り残される。
時正はガクンと床に崩れ落ち、破られたチラシを握り締め、唇を震わせ悔し涙を流した。

