「原爆ってなんじゃ!こがあな新聞を持っとるなんて米軍に通じとる証拠じゃ。そんな奴の言うことなんか信じられんわい」

「紘一、原爆は米国の新型核爆弾じゃ。一発で何万もの人を殺せる核兵器じゃ。広島だけじゃない、長崎にも落とされたんじゃ。日本は敗戦する。どうせ敗戦するなら、原爆投下前にいさぎよう敗北を認めんと沢山の人が死んでしまうんじゃ!」

「こがあな話を信じろちゅうんか。なんで広島なんじゃ、東京じゃのうて、なんで広島なんじゃ」

「広島には陸軍や各部隊の駐屯地が仰山あるけぇじゃ」

「駐屯地があるんは広島だけじゃなかろうが。広島は東京に比べ空爆も少ない。こがあな田舎に新型爆弾を落とす必要なかろうが」

 和男は否定的で、俺の話を聞こうともしなかった。時正はそれでも和男に食い下がる。

「和男、よう聞いてくれ。原爆は中島地区に投下されるんじゃ。中島地区の人を、広島の人を、他の県にはよう退避させんといけんのじゃ!このままじゃ僕も和男も原爆で被爆するんじゃ」

「わしらが被爆?被爆ってなんじゃ?」

「原爆の熱で体は焼かれ、全身を放射能に蝕まれるんじゃ。原爆の威力は脅威的じゃ。即死する場合もある。中島地区だけじゃない。ここにおってもみんな被爆するんじゃ。僕は日の丸鉄道学校の仲間も鉄道寮の仲間も、助けたいんじゃ。けど1人じゃなんもできん。紘一や軍士や和男にも協力して欲しいんじゃ」

「わしは協力せんけぇの。原爆とか被爆とか意味が分からん。時正の言うちょることは信用できん。非国民になりとうないけぇ今の話は聞かんかったことにする。わしの前で2度と話さんでくれ」

 和男は俺を毛嫌いし、俺の話はおろか、時正の話も聞こうとはせず、プイッと背を向け足でドアを蹴り部屋を出て行った。

「和男は日本が負けるとは思うとらんのじゃ。両親を空襲で亡くし、連合国軍に仇を討つことだけ考えとるんじゃ。わしも紘一も同じじゃ。時正も従姉妹を東京大空襲で亡くしたじゃろう。なしてこがあなことに首を突っ込むんじゃ。こがあなことをしても、誰も賛同せん」

 軍士の言葉に、紘一が深く頷く。