あの日、あの時、君といたモノクロームの夏。

「この恰好じゃ目立つ。僕の服を貸すけぇ、それに着替えて。音々ちゃんはここにはこんかったんじゃ。タイムスリップしたのは僕と桃弥君だけじゃ」

「ねねは……タイムスリップしてないのか?」

「きっとそうじゃ。僕だけが桃弥君の時代にタイムスリップしたみたいに、音々ちゃんはきっと元の世界におるんじゃ」

 音々がタイムスリップしていないと聞き体の力が抜ける。タイムスリップしたのは俺だけ。時正と一緒に時空を超えたのは俺だけ……。

「……よかった」

 音々がこの時代にタイムスリップしなくて、本当によかった。あいつを危険な目に合わせたくない。

「桃弥君は僕の部屋におってくれ。僕は紘一と作業してくるけぇ。寮長には時期を見計らって話をするつもりじゃ。それまでは誰にも見られんように、もし誰かが部屋に来たら押し入に隠れるんじゃ。ええな」

「わかった」

 俺達が2016年の未来からタイムスリップしたなんて、誰も信じてはくれないだろう。

 まずは同室の紘一に信じてもらうしかない。

 ――夜、作業を終えた鉄道学校の生徒が寮に戻って来た。ガヤガヤと賑やかな声と複数の足音。俺は押し入れの中に身を隠す。

 ガラガラと戸が開き、誰かが部屋に入った。押し入れの襖がスーッと開き、時正が小声で話し掛けてきた。

「桃弥君、夕飯はみんな食堂で食べるんじゃ。食い物をこっそり持ってくるけぇ、ここでもう少し待っとってくれ」

「わかった……」

「この部屋には、紘一以外にあと2人おるんじゃ。2人には桃弥君は僕の親戚じゃと伝えてある。原爆のことや終戦のことは、夕飯が終わってから話すつもりじゃ」

「そんなこと信じてくれるかな」

「もう日にちはないんじゃ。全部話すしかない」

 俺は時正の言葉に頷く。