「また始まった。ねねは被害妄想アンド自意識過剰だからな。自分がモテると勘違いしてるんだ。時正、聞き流せ」

「自意識過剰だなんて失礼ね。お祖父ちゃんの名前は守田紘一《もりたこういち》だけど、本当に過去から未来にタイムスリップしたなら、お祖父ちゃんのこと知ってるはずだよね」

「守田紘一!?音々ちゃんのお祖父ちゃんが紘一だって!?紘一はこの時代におるんか?紘一に逢わせてくれ。紘一なら僕がわかるはずじゃ」

 時正は音々の両肩を掴み、激しく揺すっている。その気迫に音々は驚き、少し怯えている。

「痛い、時正君……痛いよ」

「時正、ねねが痛がってるだろう。離せ!」

 俺は時正の肩を掴む。時正はハッとしたように音々の体から両手を離し、その場にペタンと正座し床に両手をついて音々に土下座した。

「音々ちゃん、乱暴なことしてすまんかった。僕は……守田紘一と同じ鉄道寮にいた。紘一は僕の親友じゃ……」

「時正君……1945年から来たって本当なの?私のお祖父ちゃんは昨年11月に亡くなったのよ。だからもう逢うことは出来ないの」

「……そんな。紘一が亡くなったなんて。嘘じゃ……」

 時正は肩を震わせ、むせび泣く。
 音々は時正の背中を擦った。

 時正に優しく接する音々。俺以外の男にそんな優しい眼差しを向けんなよ。

「時正君、本当に過去からタイムスリップしたなら、お祖父ちゃんの話をもっと聞かせてくれる?私ね、お祖父ちゃんから若い頃の話聞いたことがないんだ」

 時正はコクンと頷き、右手で涙を拭う。

「紘一と僕は日の丸鉄道学校で出会った。紘一は瀬戸内海に浮かぶ島育ち、泳ぎが得意で社交的で友達もぎょうさんおった。僕は内気な性格でなかなか友達もできんかった。鉄道学校にも馴染めずポツンと孤立しとった。そんな僕に最初に声を掛けてくれたんが紘一じゃった。僕は紘一に救われたんじゃ。紘一のお陰で口下手な僕も寮の仲間とも打ち解けることができた。紘一は僕の恩人じゃ」

 音々は時正の話に聞き入っている。