「もも、いるの?おはよう」

 玄関で音々の明るい声がした。
 朝っぱらから、やけに張りきっている。

「ねねか、上がれよ」

「うん。お邪魔しまーす」

 階段をトントン上がる軽快な音。
 自分が暇な時は俺の都合を無視し、必ず家に上がり込む。

 部屋のドアを開け時正と目が合った途端、音々の顔が真っ赤になった。時正を見て真っ赤になるなんて、なんなんだよ。

 俺はなぜか面白くない。

「あっ……時正君おはようございます。昨日、ももの部屋に泊まったんですね。もも寝相悪いから、眠れなかったでしょう。ももに押しつぶされませんでした?」

「なんだよ、それ。俺達同じ布団で寝てませんから」

「当たり前でしょ。同じ布団で寝てたら引くし。超キモイし」

 キモイってなんだよ。意味わかんねぇ。

 音々はペラペラと一方的に喋り、硝子の器に入った真っ赤な苺をテーブルの上に置く。

「時正君もどうぞ召し上がれ。いつまでここにいるの?やっぱりおばさんの親戚だったの?」

 音々は自分が持ってきた苺に、俺達よりも先に手を伸ばしパクパク食べながら矢継ぎ早に問い掛ける。

 食べるか喋るかどっちかにしろよな。
 まるで向日葵の種を貪る仔栗鼠みたいに、ほっぺたが膨らんでるよ。

 男子の前で、女らしくできねぇのかよ。

「ねね、お前タイムスリップって信じる?」

「タイムスリップ?SFマンガは好きだよ。戦国時代にタイムスリップとか、未来にタイムスリップとか、映画も大好きだけど、それがどうかしたの?今日SF映画観に行くの?それなら、私も行く行く」

「そうじゃなくて、現実にあったら信じる?」

「現実に?きゃはは、ももどうかしてる。現実にあるわけないでしょう。けど、未来に行けるなら行ってみたいな。ももがどんな大人になってるか見てみたい。メタボで頭剥げてたらとうする?まじ、ウケるんですけど」

「ばーか、俺は真剣に話してんの。何で俺がメタボで剥げるだよ。いいか、よく聞け。時正は1945年8月6日の朝、原爆投下された瞬間、ここにタイムスリップしたんだ」

「ふーん、だからあんな恰好していたの?タイムスリップってどんな感じ?ビューンて時空飛び越えちゃうの?なーんて、そんな非現実的なこと私が信じるわけないでしょう。あはは、バカバカしい」

「な、時正。誰も信じねぇだろう」

 俺は時正に「諦めろ」と呟く。

「音々ちゃん、嘘じゃないんだ。僕は日の丸鉄道学校の学徒動員で広島機関区に……」

「学徒動員?日の丸鉄道学校?それってうちのお祖父ちゃんと同じだよ。うちのお祖父ちゃんのこと知っててそんなこと言ってるの?まさか時正君は私のストーカーじゃないよね?」