妄想癖、戦争マニア、精神異常……。
 脳内に数々の疑惑が浮かぶ。

 時正の話は半信半疑だったが、机の本棚から歴史の教科書を取り出し時正に見せた。時正はそれを食い入るように読みあさり、教科書に掲載された被爆後の広島の写真を見て言葉を失った。

「これは……」

「時正、大丈夫か?これが第二次世界大戦の結末だよ。日本は71年前に敗戦し、第二次世界大戦は終戦したんだ」

「……桃弥君が言うことがほんまなら、僕は戻らんといけん。広島の人を退避させ、被害を食い止めんといけん。15日に日本が連合国軍に負けるなら、これ以上、広島市民を死なすわけにはいかんのじゃ!どうしたら僕は1945年に戻れるんじゃ!桃弥君どうしたらええんじゃ!教えてくれんね!」

「落ち着けよ。俺にそんなこと言われてもわかんないよ。大体、時正が1945年からタイムスリップしたなんて、信じらんねーし。なんの証拠もねーし」

 真顔で頭を抱え込む時正が、精神的な病気とは思えない。

 かといって、映画や漫画みたいに現実にタイムスリップ出来るとは思えない。

 俺は現実と非現実の狭間で、愕然としている時正に的確なアドバイスをすることが出来なかった。

 ◇

 ――翌朝、5月28日土曜日。
 父は仕事に出掛け、学校が休みの俺は時正と2人で部屋に隠っていた。

 朝刊の一面には昨日のアメリカ大統領の訪問が大きく掲載され、時正はその新聞が欲しいと俺に懇願した。

「父ちゃんはもう読んだし、そんなに欲しいなら時正にやるよ」

「ありがとう。この新聞を鉄道寮のみんなに見せたいんじゃ。寮長も寮生も、広島の人もこれを読んだら僕の話を信じてくれるはずじゃ」

「そう簡単に信じるかな?俺が時正のことをまだ信じらんねぇのに」

 百歩譲って時正が、過去からタイムスリップしたとしても、どうやってまた過去に戻るんだよ。タイムマシンなんて存在しないんだ。過去行きの列車があるわけじゃない。自力で1945年に戻れるわけないだろう。

 原爆のことをもっと知りたいと懇願する時正のために、俺はパソコンで第二次世界大戦の広島の様子や原爆投下について検索する。戦争や核兵器に関心がなかった俺も、時正と一緒に閲覧した。