―2016年8月6日、平和記念公園―

 音々ちゃんの家族と桃弥君の姿が見えた。

 広島市中区本安川にて、毎年行われている灯篭流し。平和への祈りを込め、灯篭を川に流す。

 日が暮れ、本安川に沢山の流灯が行われた。川に漂う流灯を見つめ、人々が原爆死没者をともらい平和を祈る。

 ――夜9時、そろそろ僕達の出番だ。

 川辺を照らす朧げな青白い光。

 僕は……
 たくさんの仲間と共に川辺を漂う。

「もも……見て、蛍だよ」


 ――音々ちゃん。

 やっと……

 僕に気付いてくれたね。

 
 ◇


 ――僕はずっとこの世界にいたよ。

 紘一が蛍子さんと結婚した年の……
 幸せな夏も。

 蛍子さんが白血病で亡くなった年の……
 悲しい夏も。

 ――そして……
 音々ちゃんが生まれた年の……
 嬉しい夏も。

 桃弥君と一緒に小学校、中学校、高校に進学した年の……
 楽しい夏も。

 誰も僕には気付かなかったけど……

 ――僕は……

 ずっと……みんなの傍にいたよ。


 ――僕は……生まれ変わったんだ。

 僅かしか生きられない短い命だけど。

 この日本が、この世界が、平和であり続けることを願って、希望の光を放つ……。


 ――カラフルな色彩《いろ》に包まれた、この美しい街で……

 僕は何度でも、生まれ変わる。

 大好きな君たちに逢うために。

 



 【短編】あの日、あの時、君たちといたモノクロームの夏 【完】