僕は2016年に目にしたこと、耳で聞いたことを、全て谷崎大佐に話した。
 日本は6日に広島、9日に長崎、相次いで原爆を投下され敗北、8月15日終戦を迎えること。

 未来の日本は緑溢れる平和で豊かな国になっていること。

「……そうじゃ、新聞じゃ。未来の新聞があるんじゃ。谷崎大佐、これを見て下さい」

 僕はズボンのポケットから、折り畳んだ新聞を取り出し、テーブルに広げた。

「これは……?」

 谷崎大佐は新聞を読み、絶句した。

「どこで、これを手に入れた?」

「信じてもらえんかもしれませんが、僕は8月6日を2回繰り返したんじゃ。1度目は外で作業しとった時じゃった。米軍機が低空飛行し、空を見上げたんじゃ。そん時、空がピカーッと光ったんじゃ。僕は気を失い、目が覚めたら2016年5月27日じゃった。米国大統領が広島を訪問しスピーチしとるのをテレビで観て、この耳で聞いたんじゃ」

「君が未来へ飛んだと?」

「ほんまじゃ。ほんまなんじゃ。今日、8時15分、新型爆弾が投下されるんじゃ。各所に連絡して退避するよう指示を出して下さい。ここは司令部じゃ。谷崎大佐なら出来るじゃろう。お願いします、お願いします!」

「君の話を理解することは、とても難しい。誤報を流せばさらに市民を混乱させるだけ。まずは、君の予言が的中するかどうか、様子をみさせてもらうよ。午前7時過ぎ、敵機が広島上空に現れたら、君の話を信じよう」

「それじゃ……遅いんじゃ!」

「申し訳ないが、不確かな情報で国を動かすことは出来ないんだよ」

 ――“午前7時過ぎ、気象観測機Bー29の1機が広島上空に到達した。”僕は地下壕の小窓から谷崎大佐と共に、外を見ていた。

「谷崎大佐、彼の言うとおり敵機発見!警戒警報発令しました!」

 谷崎大佐は指揮連絡室から報告を受け、時計に視線を落とした。“時刻は7時9分、敵機はそのまま広島上空を通過し、空襲警報は7時31分に解除された。”

 谷崎大佐は愕然としている。
 それでもまだ半信半疑だった。

 司令部の上層部を作戦室に集め、僕の持っていたビラと新聞で緊急会議を開く。だが、未来にタイムスリップしたと話しても、上層部を納得させるだけの説得力はない。

 “8時9分、すでにエノラ・ゲイ(米軍機)は広島市街を目視で確認していた。”

「こんなことをしている時間はない。警報発令の準備にとりかかるんだ!」

 谷崎大佐の激昂が作戦室に響く。

「谷崎大佐、広島上空に再び敵機発見!3機います!落下傘を投下したもようです!」

「なんだと!警報発令を急げ!各地の陸軍司令部や報道機関に至急連絡するんだ!一刻の猶予もない!急げ!」

 “8時13分、警戒警報の発令を決定したが、各機関への警報伝達は間に合わなかった。”