俺はこちらを見ているじいさんに軽く会釈をして、





「お話し中、失礼しました」





と、人当たりのいい笑みを浮かべた。




じいさんは「いや」と短く答え、どこか気まずそうにコーヒーカップを手にとった。




でも、耳はこちらに向いているのが分かる。





俺と春川の関係を気にしているのだろう。






ぱたぱたとレジに入った春川に伝票を渡し、俺はちゃんとじいさんに聞こえるように言ってやる。







「春川、今日も頑張ってたな。偉いぞ。


あ、明日の授業で宿題集めるから、またチェック頼むな」







こういうふうに言えば、じいさんにも、俺が春川の高校の教員だと分かるだろう。




教員がときどきこの店に来るのだと知れば、春川に妙なことをする気にもならないはずだ。