「あべちゃ〜ん!!」





新幹線の改札が見えてきたところで、人混みをつきぬける能天気な声が背後から聞こえてきた。




以前だったら、呆れ顔で振り返り、「周りに迷惑だからやめてください」と言っていただろうけど。




今のあたしは、なぜかどきりとして、すぐには振り向けなかった。





とりあえず、聞こえないふり………






「あっべっちゃ〜ん、こっちこっち〜」






課長には、そんな小細工は通用しなかった。




あたしは足を止め、ゆっくりと後ろを向いた。






「おっはよ〜、あべちゃ〜ん」





「………おはようございます」






思った以上に小さい声になってしまって、しまった、と思ったけど、課長は気にする様子もなくあたしの隣に並んだ。