「あと一分ー」
「まださっきから一分も経ってないって!」
 そりゃあ時間なんて見てないし。テキトーに時間言ってるだけ。
 私が葉月をいじめて遊んでいると、教室に誰かが入ってきた。
「あ、華世」
 私が言うと、葉月は一瞬止まった。
 仕方がないけどね。あんなことがあったんだし。

 華世が葉月に襲われた演技をした事件の次の日、華世はいつもと変わらない様子で教室に来た。
 まるであの事が無かったかのように、可愛い笑顔で私と葉月におはようと言う華世。
 葉月も葉月で、いつもみたいに華世に熱烈ラブコール。

 葉月が動揺していることは私には分かったけど、華世が何を考えてるのかさっぱり分からない。
 それが私が華世から離れてしまった理由の一つ。
 高校に入って自然と離れた私たちだけど、中学の時から少しずつ離れていった。

 華世が何を考えているのか分からないのがこわかった。
 人が考えてることなんて分かるわけ無いけど、華世は私から見ると本音が全然見えない。
 絶対に私の前では悪口を言わないし、おとなしい。

 でも、悪口を言っている場面を見たことはある。

 親に捨てられた華世は辛い人生を歩んできた。
 それで真っ直ぐ素直な優しい子に育つ人は本当に強い人だけ。
 華世は誰よりも弱い。
 私はそんな華世も含めて親友だと思ってた。
 でも、段々と疑問に思ってきたことがある。

 何で華世は私に本音を言わないのか、本当の華世を見せてくれないのか。

 そのことを思うようになってから、私は分からないくらいの距離をとっていた。
 ほんの少しだけど、確実に離れた。