そう言えば、ずっと“彼”って言ってたから、名前知らないんだ。



「そうだよ。前田隆太郎」



たかが名前にどうしてそこまで、ってくらいの驚き様。

瑞穂は一瞬顔を顰めてから、私の目を真っ直ぐに見た。



「その名前は……間違いないんだよね?」

「え……うん、もちろん」

「絶対?」

「好きな人の名前間違えるわけないじゃん。絶対だよ。絶対、間違いない」



私の答えを聞いた瑞穂は、「落ち着いて聞いてね」と前置いた後、少し間を空けて決心したように口を開いた。



「私の記憶が正しければ……智也くんの父親は──“前田隆太郎”じゃない」



……え──?

瑞穂の声は確かに聞こえたのに、いつかと同じように全く頭に入ってこない。