大和のことは思い出に変えたのだ。
あれから半年がたって、もうその思い出すらも消えかけていたというのに。
いまさらノコノコ現れないでほしい。
だって、あたしは、悔しいけれど本気であの男のことが好きだった。
大好きだったんだ。
生まれてはじめて、この人しかいないって思わされるような恋だった。
そんな気持ちを、あの男はまるごと踏みにじった。
誰がそんな男となんかやり直すか。
滅びろ。
平気で浮気するようなやつは絶滅してしまえ。
サイテー男。
クソヤロウ。
「ふう……」
涙と鼻水でびしょ濡れになった顔面を無造作に拭う。
早く立ち上がらないと、そろそろ自分の情けなさに飲みこまれてしまいそうだ。
ふと、右手に持っていた黒の紙袋が、ガサと音を立てた。
呼ばれるみたいにそれを開くと、ほのかに寛人くんの香りが鼻をかすめて、同時にあの嫌な煙草くささがすうっと消えていく気がした。
丁寧にたたまれているのは、白いシャツと、細身のデニム。
パリッとしている。
ああ、クリーニングに出してくれたんだね。
そういえばあの飲み会にはこんなラフな服装で行ってしまったのだった。
ついこないだのように思えるし、もうずっと前のことみたい。
寛人くんは、元気にしているのかな。
ちゃんと食べているのかな。
……食べて、ないか。



