フキゲン・ハートビート



「……なんの用? こんな時間に家まで来て」


できるだけ低く、小さい声を出す。
そしてわざとらしくドアノブに手をかけた。

とにかく早く帰ってほしかった。


けれど、そんなあたしのサインになどおかまいなしに、大和は眉を下げて笑うだけだ。


「わはは、なんだよ、冷てえな」

「当たり前でしょ。もう顔も見たくないって言ったよね」

「俺は、会いたかったよ。この半年間、ずーっと蒼依に会いたくてしょうがなかった」


またそうやって、心なんか微塵もこもっていない、ぺらぺらに薄い言葉を平気でならべて。


「ずっと蒼依のことが忘れられなかった」

「……だから、なに」

「やり直したい」

「いまさら調子いいこと言わないでくれる?」

「俺とやり直そう」

「人の話聞いてんの?」

「蒼依」


ああ、もう。


「うっとうしいな。あんたとはとっくに終わってるの」


だから早く、目の前から消えてよ。


「――あいつとは、別れたよ」


「な、に……」

「だからやり直そう。やっぱり俺、蒼依じゃないとダメだったんだよ」


いったいなに寝ぼけたことをぬかしているのだ、このクソヤロウは。


そう思うのに、大きな体にぎゅっと包みこまれていることを認識した瞬間、喉はひゅうっと情けなく鳴るだけ。


煙草のにがい香りがなつかしくて、

……息が、できない。