フキゲン・ハートビート



俊明さんと別れてからシッカリ6時間の労働を終え、帰宅するころになると、頭上にはチカチカと星たちがまたたいていた。

夏が近づいてきて、最近はずいぶん陽が長くなってきている気がするけど、閉店まで働くとやはり辺りは真っ暗だ。


「ふうー、疲れたあ」


ひとり暮らしを始めてから圧倒的にひとりごとが増えたと思う。

でもたまに、こんなふうに外でも無意識にブツブツしゃべってしまうことがあるから、チョット気をつけておかないとな。


そんな、しょうもないことを考えながら、いつも通り鍵をドアにさしこんだ。

カチャン、という気持ちいい音を聞いたのと同時くらいに、



「――蒼依」



よく知っている声に、名前を呼ばれたのだった。


ちょっとこもりぎみの、マイルドな低音。

心地いい声。


違う。


心地よかった、声だ。



「蒼依」


もういちど、それがあたしの名前を呼ぶ。


「……大和(ヤマト)、なんで」

「久しぶりだな」


やる気のなさそうな無造作ヘアーも、

がっちりした肩幅も、

ゆるいジーンズも、

へにゃっと笑う目元も。


すべてが変わっていなくて、ひどくなつかしい気さえ、してしまう。


「半年ぶりくらい? 蒼依、ちょっと見ないあいだにすげえ綺麗になってんじゃんね」


……ああ、
そっちは、あたしが大嫌いな、大和のままだだね。