フキゲン・ハートビート



「……でもさ、ほんと、そうなんだよね。よく考えたらちゃんちゃらおかしいじゃんね。あーもう、なんであたしが泣かなきゃいけなかったんだろう」


頭をがくんと落とし、ひとりごとみたいにこぼす。

そうやってひとりでうなだれていると、ふいに、ふっと息を吐く音が聞こえた。


「おまえって、アホだな。他人の恋愛話なんかで泣いて、酔っぱらって、ゲロ吐いて、また泣いて、かっこわり」

「ア、アホ……ってあんた、ちょっとひどいんじゃ……、……え?」


夢でも見ているのかと思った。

それとも、パラレルワールドにでも来てしまったのか、と。


だって、顔を上げた視線の先で、半田くんがあんまりやわらかい顔で笑っていたから。

そりゃあ言葉にも詰まる。


キサマは誰だ。
さては半田寛人の顔をした別人だな。


そんなしょうもないことを思うくらいには衝撃だった。


だって、こんな顔ができる男だなんて、知らなかった。

知ろうともしていなかった、
というほうが、もしかしたら正しいかもしれない。