フキゲン・ハートビート



「さ、食べて」


言いながら、うっとうしい前髪を結わえていたチョンマゲをほどく。


ボブにした髪と前髪の長さがそろったのは去年の冬だったかな?

それからずっとワンレンのボブだけど、そろそろ伸ばそうかとも考え中だ。


半田くんは、ならんだ料理を見るなり感心したような顔を浮かべて、テーブルについた。


「いただきます」


そしてうやうやしく言った。

それを聞きながら、あたしはちょっと気恥ずかしい気持ちになってしまった。
心臓がこそばゆい。


最初にどれを食べるのか迷っているみたいだったけど、やがて彼が手を付けたのは、トマト煮だった。


「……どう?」

「うん」


飲みこんで、一度だけうなずく。


「ふつうに、うまい」


ふつうに、とはなんだ。

ああ、でも、やっぱり心臓がかゆい。


「うん、うまい」


半田くんはもういちど言った。

ひとりごとみたいにこぼれたそれは、恥ずかしいからもう聞こえないふりをして、あたしもトマト煮を口に押しこんだ。