フキゲン・ハートビート



「けっこう身だしなみ気にしてるっぽいから、料理とかはダメかと思ってた。そういうオンナ多いだろ」

「うわー。半田くん、そういうのを偏見っていうんだよ」


たしかに、とつぶやいたあとで、半田くんはその薄いくちびるをぐっとつぐんでしまった。

いつもの不機嫌そうな表情とは違う、すねているみたいなその顔がチョットかわいくて、トマトを切りながら思わず笑ってしまう。


「……なんだよ?」

「べつにぃ?」

「ウゼェ」


はい、出た。
すぐウゼェと言うんだからな。

でも、もうソレを言われても、へっちゃらだもんね。



くだらないことを話しながら、たまに沈黙を落としながら、なぜかずっとふたりでキッチンに立っていた。


ハタチになる歳、あの半田寛人と、半田寛人のウチで、こんなことをしているなんて、15のころは想像もしていなかったな。

それを伝えたら、おれも、と言われた。

あのころとさほど変わっていない、とても小さなボリュームの、少年みたいにあどけない声で。



「よーし、できた」


チキンのトマト煮と、オムレツ、
それからニンジンとタマネギのコンソメスープ。

ホカホカと湯気をたてているそれらを皿に盛りつけ、ひとつずつテーブルへ運ぶ。


ならべてみると彩りもいいし、我ながら上出来だな。

いいにおい。
なかなか、おいしそうじゃないの。