フキゲン・ハートビート



もう陽は沈みかけている。

薄暗くなった部屋のなか、再び訪れた沈黙を経て、おもむろにふたつの瞳がコッチを見上げた。


「……帰る? 送ってくけど」


疲れた感じの、少しかすれた声だった。


「あ……! その前に、迷惑じゃなければお礼とお詫びをさせてほしくて、ですな」

「は?」

「ゴハン……とか、で、よければ。あたしがつくるのがヤだったら、外でおごるし」


アーモンド形のつり目がみるみるまるい形に変わっていった。

けれども、それは最終的に嫌そうな顔にはならなかった。


よかった。けっこう勇気をふりしぼったんだ。
だってまたウゼェって言われそうじゃん。


「……わかった。じゃ、『お礼とお詫び』してもらうわ。おまえの手料理がどんなスゲェもんかは知らねーけど」


本当に驚いた。
まさかそんなにあっさり了承されるとは、思ってもみなかったから。

さりげなくハードルを上げ、プレッシャーをかけられたのは、聞かなかったことにしよう。


「あ。でも、ウチに食えそうなもん、なんもねえかな。まず買い物行かねーと」


食えそうなもんがない、とは、どういうことなの。

それならキミは普段いったいなにを食って生きているわけ。