フキゲン・ハートビート



不自然に部屋の真ん中に突っ立っていたあたしに、彼がぐにゃりと顔をゆがめる。

驚き、不審、怪訝、
いろんなのがゴチャっとしたような表情だ。


「……ただいま」


しばらくの沈黙のあと、とうとう声を出したのは半田くんのほうだった。


「あ、お、おかえり……」

「なにしてんの?」

「イヤ、なんか……落ち着かなくてですな」

「体調は?」

「あ、すこぶるよいです」

「あ、そう」


聞いといて、興味などひとつもなさそうな返事。


彼はその細っこい体をソファに投げだすと、疲れた、と言った。

なにをしてきたのか疑問に思ったけど、それを聞くよりも前に、言うことがある。


「あの。洗面所……いろいろ、ありがとうございました」

「洗面所?」


ちょっと考えてたのち、合点がいったように「あー」と声を上げる。


「アレ、置いといても使わねーから、持って帰ってくれると助かる」

「あ、ほんと? ありがとう、本当に……、ほんっっっとうに」

「うん」