フキゲン・ハートビート



半田くんは「夕方には帰ってくると思う」なんて曖昧なことを言い残し、本当にあたしを置いて出ていってしまった。


ちなみに、わざわざそれをベッドまで言いに来てくれた彼は、まっくろくろすけからちょっとキレイめなバンドマンに変身していたのだった。

ゆるいプルオーバーは、カーキの薄いシャツに。
楽チンそうなジョガーパンツは、黒いスキニーパンツに。
黒縁の眼鏡は、たぶん、コンタクトに。


その姿にはなんとなくオーラみたいなものがあって、半田くんもまぎれもなく芸能人なんだな、と実感した。

そういえば、中学時代は学生服だったし、どちらかというとまっくろくろすけのほうに近かった気がする。



もぞもぞと布団の中にもぐる。


いいにおいがした。
やわらかいにおい。

でもやっぱりチョット男の子独特のにおいがして、おかしな気持ちになってしまう。


ああ、いまあたし、半田くんがいつも使っているベッドで、寝ているのか。
まあすでにひと晩お世話になったわけですが。


にわかには信じられないな。

中学時代のあたしにこの状況を伝えても、絶対に信じてくれないだろうと思う。