「やめときなよ」


最初から敗れるとわかっている恋なんか、絶対にしないほうがいい。

新奈に、傷つかなくていいところで、傷ついてほしくない。


「……なんで、そんなこと言うん?」


さっきよりも1トーン低い声が、あたしたちのあいだにぽとりと落ちた。


「なんで『ガンバレ』言うてくれへんの? ……蒼依て、そういうとこあるよな。冷たいっていうか」


新奈の女の子っぽく彩られている指先が、するりとあたしの肩からすべり落ちていくのを、どこか現実じゃないような気持ちで見ていた。


「なんでもわかったような顔でリアリスト気取ってるトコ、ちょっと、むかつくときあるわ」


明るい茶色のポニーテールが目の前で揺れた。

がっつりあいた白い背中をぼうっと眺めていたら、それはやがて、ドアの向こう側へ消えていったのだった。


「……なんだよ、もう」


悪かったな。


冷たいやつで、悪かったな。

ガンバレって言ってあげられない友達で、悪かったな。


べつにリアリストを気取っているわけじゃないけど、そういう顔に見えたなら、それも悪かったな。


「あ~~っ、もう!」


自分ではどうしようもない、どす黒いもやもやが広がっていく。


新奈の恋がうまくいくということは、
キサさんと洸介先輩が別れるということ。


それをどうやって応援しろというの。

ていうか、なんで無関係のあたしが板挟みみないにならなきゃいけないわけ。


……ああ、ダメだ。
イライラする。