フキゲン・ハートビート



疲れたので、それからはもう黙って軟骨のからあげをチマチマ食べた。

そうしているうち、いつのまにか2杯目のジョッキもカラになっていた。


うーん。そろそろ甘いのでも飲もうかな。



「――ええ~!? 洸介とキサさんってケンカしたことないんですか~!?」


手元にあったドリンクメニューをぼんやり眺めていたら、いきなり元気な関西弁が耳に飛びこんできた。


目をやると、新奈が甘えるように洸介先輩に寄り添っているところで。

洸介先輩も、キサさんも特に気にしていないみたいだったけど、ものすごく頭が痛くなる。


いいかげんにしてよ、もう……!


お酒もシッカリ入っているし、そろそろ新奈が暴走しはじめないか本当に心配だ。


「……いまさらだけど」


じっとソッチを見つめていたあたしに気付いてか、ふと半田くんがかったるそうな声を出す。


「席、かわってやろうか」

「え」

「コッチいてもつまんねえだろ。せっかく来たんだからむこう参加すれば」


気がきくのか、そうじゃないのか。
ていうか本当にいまさらにも程がある。


「……べつに、いいよ」


自分でもぜんぜんわからないまま、なぜか考えるより先に答えていた。


「あたし、もともとお酒は黙ってチビチビ飲みたい派だし。ここで静かに飲んでるほうが落ち着く」


半分ホントで、半分ウソ。
たしかにチビチビ飲むのも好きだけど、それと同じくらいワイワイ楽しく飲むのも大好きだ。

飲み会が始まってすぐにこの提案をされていたら、もしかしたら、喜んでかわってもらっていたかもしれない。


「……ふうん。なら、いいけど」


でも、いまは、なんか、ここでじゅうぶんっていうか。

この男のことは正直ぜんぜん好きじゃないけど、会話は嫌になるほど続かないけど、いっしょに飲むビールは、なんだかすごくおいしいから。