フキゲン・ハートビート



この男の、こんな顔、たぶん、はじめて見た。


「……半田くんって、笑うんだ」


思わず口をついて出たあたしの言葉を聞くなり、それはまたむすっとした仏頂面に変わってしまったワケだけど。


「は?」


うわ、前言撤回。
やっぱりぜんぜんかわいくない。


「ハじゃないよ。ねえ、いつも笑ってなよ。絶対そのほうがいいから」

「うるせえな。つーか笑ってねえから」

「いーや完全に笑ってたね! もったいない、スゴイよかったのに!」

「ヨカッタってなんだよ」


「だってほら、ねえ、

 ――アキ先輩にそっくりでさ!」


とたん、そのつり目がパチッと開き、黒いまんまるがじわりとあたしを映しだす。

でも半田くんはすぐにふいっと視線を外してしまった。

怒っているとか、そういうのとはまた違う顔が、ちらりと見えた気がした。


「……どこが、似てるんだよ。あいつと」


まったくもってどこも似てないけど、顔だけは本当にソックリだよ。

……とは、なんだか、どうしても、口にすることができなかった。