「どうする? 飲みもの」
おかしなところに感動し、ボケっとしているところを、俊明さんの優しい声が現実に引き戻してくれる。
「あっ! すみません、あたし生中で大丈夫です!」
とたん、優しく濡れた漆黒の目がキョトンとした。
あ……しまった。
ついいつもの癖で、ナマチュー、とか言ってしまった。
まだハタチにもならないうちから(あたしの誕生日は7月である)、1杯目がビールって、我ながらどうよ?
大学に入ってすぐ、部活とサークルの新歓をハシゴしたのが悪かった。
タダメシが食べられると聞いてがっつきに行った結果、お酒の味を覚えさせられた。
それは、新奈も同じく。
でもいま思えば、あたしたちはたまたまお酒が強かったからよかったものの、ああいう文化は絶対に考えものだな。
毎年どこかしらの大学が決まってニュースになっているワケだし。
……タダにかこつけてガブ飲みしてた女子大生が言ったところで、なにひとつとして説得力はないのだろうけど。
「あはは! オッケー、わかった、生中ね」
俊明さんが軽快に笑った。
「ヒロも生?」
「あ、はい、おれも」
へえ、半田くんもビールを飲むのか。
あれ?
そういえば同い年だけど、この男はもうハタチの誕生日を迎えているんだっけ?
どうなんだろう。
なんとなく半田くんは冬生まれっぽいけど、春生まれと言われても納得できる気がする。
まあ、夏だろうと秋だろうと、特に異論はないですが。



