半田くんがぺろっと広げたドリンクメニューを、視界の端っこのほうで眺めていた。
ちょっとはコッチに見せるそぶりくらいしてみせろや、
と思わなくもなかったけど、またなにか言われると嫌なので黙っておく。
「蒼依ちゃん、お酒は飲めるほう?」
たぶんかなりブスッとしていたのだろうと思う。
そんなあたしに気を遣ってか、正面の和みフェイスが、もっと和む笑顔をこっちに向けてくれていた。
本当に優しくてホロリと涙が出そう。
せっかく誘ってもらったのに、少しでも嫌な顔を見せてしまって、反省だ。
「あ、お酒は……ふつう、です」
真っ赤な嘘です。わりと、いやかなり、強いほうです。
「そっか。女の子だし、カクテルとかのほうが飲みやすいかな」
言いながら、俊明さんのきれいな手が半田くんからドリンクメニューを奪っていく。
といっても、ゼンゼン強引な感じじゃなくて。
ものすごく自然なやり取りというか、ふたりの息がピッタリ合っていたというか。
だって、受け取る、渡すの作業にひとつの無駄もなかった。
「貸して」とか、「見る?」とか、そういうのもいっさいなかった。
いっしょに音楽をやっていると、こういうところまでも意思疎通ができるようになっていくのだろうか。
ベースとドラムが曲のリズムを作っているんだよね。
もしかしたらステージ上でも、ふたりはこんなふうなのかもしれない。



